君は知っているか。
美しく可愛く献身的な少女達からなるメイド達。
そして彼女らのご主人様となるオターク族。
その2種類の住人しか存在しない夢の中の世界を。
ある者は、桃源郷と呼び。
またある者は、狡猾なる悪魔の誘惑に満ちた監獄と呼ぶ。
それは、どこにも存在しないナルランド。
住人達がボックスマン・スーフィーアと呼ぶ世界。
そして、悪魔と取引したたった一人の男によって生み出された世界。
前回のあらすじ §
メイがご主人様に指名されるためのアピールタイムは終わった。
だが、メイは教育係のティーの指示に逆らってしまった。予定にない宣言を行ったメイは、ティーにどのようなお仕置きをされるのか!
そして、レッド・ダンディや白きプリンスにアピールしなかったメイは、はたしてどのご主人様に指名されるのか!
第10話より続く...
第11話『自らの高額落札を待つ、金で売り買いされるメイド達』 §
ティーは何も言わず、メイを他の誰もいない片隅に連れて行った。
そこで、冷たい叱責の言葉を浴びることを、メイは覚悟した。もちろん、間違ったことをしたとは思っていない。しかし、思っていなくとも、やはりティーに叱責されるのは怖かった。
ところが、メイの予測は裏切られた。
「大変なご立派なお言葉でした。まさにメイドの模範となるに相応しい態度でございました」
ティーはこう言って、メイへ一礼した。
メイは戸惑った。
ティーは自分の指示を守らなかったメイに怒っていたのではないのだろうか。それとも、メイの言葉を理解して、自分も恥ずべきことをしていたと気付いてくれたのだろうか。
だが、顔上げたティーの視線は、やはり怒りに満ちていた。つまり、メイに敬意を示しているのは、言葉と態度だけなのだ。
メイは背筋が凍った。
だが、驚いたことに、その視線は長続きしなかった。
ティーは疲れたような表情に変わると、メイに告げた。
「しかし建前はどうであれ、メイドとして生きる価値は、ご主人様次第です。初めてのご主人様は、本当にメイドとして生まれて良かったと思わせてくれる方々、白きプリンスやレッド・ダンディであって欲しかったと思います。ですが、あの方々の望む通りのアピールができなかったのですから、他のご主人様に選ばれることも覚悟しなければなりません。よろしいですね?」
最後は質問の形を取っていたが、事実上は覚悟を決めろという要求だった。
そして、もちろんメイにはその覚悟ができていた。
「はい。もちろん、覚悟しております」とメイは答えた。
「ただ……」とティーはご主人様達の方を見た。
メイも釣られてそちらの方を見た。
ティーは言った。「あの男にだけは選ばれないことを祈りましょう」
「誰ですか?」
「鉄鎖……。メイドにどれほど残酷な仕打ちをしようと、メイドを好む気持ちから出たものであれば、メイドはそれを受け入れる価値があります。ですが、あの男は違います……」
メイは、何となくティーの言うことが分かるような気がした。
そのあと、ティーはもう何も語らなかった。
さほど待つことはなく、ご主人様達がメイドを選ぶオークションタイムに入った。
ご主人様達は、思い思いのメイドの名前を金額を入札コンソールに入力していく。ごのご主人様が、どのメイドにいくらの値段を付けたのかは見えないようになっている。
そして、落札額が低いメイドから順に発表された。
あるメイドは、落札額の低さに明らかな不満の表情を見せた。
別のメイドは、低額であるにもかかわらず、落札されて安堵の表情を浮かべた。低額落札であろうと、誰にも指名を受けないという最悪の結末は回避されたのだ。
そう。いつまでも名前を呼ばれないと言うことは、高額で落札されたという可能性の他に、誰にも指名されなかったという可能性もあり得るのだ。
落札額の発表がなされるごとに、落札されたメイドはご主人様に引き渡され、二人は連れだって会場から姿を消していった。その場に残った人数は徐々に減っていっている。
メイは、ステージの脇で待機しながら、自分が指名されることを祈って目を閉じた。
その瞬間、冷めた声が聞こえた。
「まさか、高額で落札されますように、なんて祈っているんじゃないだろうな。金で買われるというのが、人間性の否定だってことが分かっているのか? 金で買えるのは人ではなくモノだぞ」
ハッとメイは目を開いた。鉄鎖がさも馬鹿にしたような表情でそこに立っていた。
続く.... §
自らの高額落札を祈るメイに浴びせかけられる思いも寄らない言葉。
ご主人様に落札されることが人間性の否定? 金で買えるものはモノでしかない?_
メイは、この言葉をどう受け止めればよいのか!
次回に続く!
(遠野秋彦・作 ©2005 TOHNO, Akihiko)
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